オルタナティブ
リモートワーク革命がオフィス市場を変革
投資家の間ではオフィス市場に関して懸念が広がっています。しかし、その実態は一部の人々が考えているほど壊滅的ではありません。世界のオフィス不動産市場は、国によって大きく異なる反応を示しています。また、最も打撃を受けたオフィス市場であっても、一部のセグメントは引き続き好調なリターンを示しています。しかし、もちろん注意は必要です。そしてさまざまなトレンドが世界中のオフィス市場を変えています。
1.リモートワークの定着
コロナ禍以降、世界を見渡しても通常通りの出社状況に戻っている地域はありませんが、アジア太平洋諸国に先導されて正常化が進んでおり、欧州と米国がそれに続いています。
アジア太平洋諸国で出社日数の正常化が進んでいる背景には、対面でのやり取りやチームビルディングを重視する文化的バイアスがあります。さらに、アジア太平洋や欧州諸国では、主要なビジネス中心地の居住空間が狭いことも、従業員が職場に回帰している理由の1つです。最後に、これら地域では公共交通機関の利便性がよいため、通勤に費やす時間とコストが少なくてすみます。
米国では通勤を自動車に依存しており、インフラの老朽化もあって通勤時間が長くなっていることが、他国に遅れをとっている理由の1つです。また、居住空間も他国より広く、在宅勤務に適しているため、従業員はリモートワークの柔軟性を手放すことに消極的です。
2.コロナ禍前に締結されたリース契約の期限が到来
市場やリースタイプ(新規・更新など)を総合した平均オフィス・リース期間は7.75年です1。 オフィス・リースは通常長期的であるため、現在有効なリースの多くはコロナ禍前に契約されたものです。これらのテナントは、新たなハイブリッド環境について十分な知識を持ってオフィススペースに関する意思決定を行う機会がありませんでした。
一方で、コロナ禍前に有効であったリース契約のうち約50%が満了になっていると推定されており、これまでの需要減とほぼ一致しています。今後もオフィス需要の減少予測に沿った傾向がみられるでしょう。
3.米国では過剰供給に直面
ナレッジワーカー(知的労働者)が拡大しているにも関わらず、米国で今後10年に必要とされるオフィススペースはコロナ禍前よりも減少すると考えられています。現在のオフィス物件所有者は、債務の返済期限、資本支出の増加、リース環境の悪化など、短期的に大きなリスクに直面しており、当面は足元の市況に合わせた資産価格の見直しを余儀なくされると思われます。一方、これから物件を取得する新たな所有者にとっては取得価額が下がるため、資産価値を高めて将来の需要を獲得するための競争力をつけることが可能となるでしょう。
また、質への逃避傾向がみられます。大規模な改装が行われていない古い建物ほど、物件稼働率の低下が著しくなっています。一般的にこうした建物は投資に見合う十分な賃料収入を得られないため、座礁資産となりつつあります。一方で、新しいオフィス基準に沿った築浅物件は、ますます市場シェアを拡大しています。
4.アジア太平洋諸国が直面する経済的課題
日本、香港、韓国といったアジア太平洋諸国では、多くの地域で出社率が80%に近付くと共に物件稼働率も回復している一方、英国と米国の出社率は50%にとどまっています2。
しかし、2024年におけるこの地域の経済成長は悪化傾向にあり、企業の景況感と収益性への打撃により、中期的なオフィススペース需要が鈍化しています。継続収益を求める投資家は、ESG意識のある、良好な立地条件を有する優良物件にこれまで以上に集中する必要があるでしょう。
5.欧州を動かすのは環境問題
オフィスにおける企業テナントは、とりわけエネルギー効率と脱炭素化を重視するようになっており、時代に適した物件と陳腐化した物件との二極化が加速しています。さらにコロナ禍後のオフィス回帰やウクライナ戦争に端を発した光熱費の高騰が、この傾向に拍車をかけています。
欧州の都市では、オフィス在庫の築年数にかなりの違いがみられます。 今後、物件の陳腐化を食い止めるにはリース満了時のオフィスのアップグレードが、そしてセクター全体の再活性化には環境面でのアップグレードが、それぞれ重要な役割を果たす可能性が高いと思われます。
米国の社員は大半がパートタイムでオフィスに回帰
米国では、任意か強制かを問わず、多くの社員がオフィスに戻ってきていますが、期待する内容に変化が生じています。オフィス出社率は週の半ばに60%前後でピークに達します3。完全にリモートワーク体制に移っていた企業の大半は、ハイブリッドスケジュールに移行しています。
たとえ週の一部でも実際に出社が必要であれば、従業員は職場と同じ都市圏で生活し、働くことになるため、不動産セクターや市場全体に対して幅広い影響を及ぼすことになるでしょう。
逆に、以前は完全に出社を条件としていた企業の多くはハイブリッドモデルに方向を転換しており、それが全体的な影響を中和しています。
リスクの中で、勝者となるには
オフィス市場は今後何年もの間、厳しい状況が続くでしょう。しかし、将来の雇用増や協働を促進するスペース(コラボレーション・スペース)の拡大に向けた新たな取り組みなど、いくつかの要因が逆風を緩和する可能性があります。徹底した市場調査と目的意識を持った事業計画に基づいて慎重に資産を選択することが、良質な投資機会を生み出すはずです。どの地域においても、グリーン認証とコラボレーション・スペースを優先することが賢明な動きといえます。
オフィス
1 出所:CompStak, Inc.
2 出所:CBRE Group, Inc.
3 出所:Kastle Back to Work Barometer、https://www.kastle.com/safety-wellness/getting-america-back-to-work/